【田村哲夫のQ&A】 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ このQ&Aは、月刊「建築技術」誌に連載していたものに多少手を加えたものです。 マンションの大規模修繕工事の技術者を対象としたものですが、設計・工事監理のコンサルタントを行ってきた立場から、「こうなってほしい!」という要望を書き綴ったものになっています。毎回少しずつ掲載いたします。技術者だけでなく、管理組合の皆さんや、コンサルタントの皆さんにも読んでいただけたらうれしいです。 田村 哲夫 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『第1回 安全大会で話すことについて 』
NPOマンションサポートネット理事長 田村 哲夫
≪質 問≫
マンション大規模工事の現場を担当している者です。今度、工事関係者一同が集まる安 全大会で話をすることになりました。与えられたテーマは、「マンションという生活共同 体を意識して、住民からみた安全性を確保せよ」という難題です。マンション管理組合も、 施工会社も、「共通目標をもって安全に工事を進める」のが一番だとは思ってはいますが、 何を話せば良いか困っています。普段の朝礼の場合は、いつも短時間でなにか今日の一言 ということになるのでこれはこれで大変なのですが、今回は15分くらいの時間枠がある とのことです。なにか助言をお願いします。
≪回 答≫
私がギリシャを旅行した時の話です。アテネ郊外の観光をして、アテネの町に戻ろうとして、乗合バスに乗りました。さて走りだしたバスの中に外人は私だけで、みんなの、見るようで見ない、見ないようで見るといった好奇心丸出しの視線にさらされていました。
ところが人家のないところで急にバスが止まってしまいました。運転手がなにか大声で言 ったとおもったら、ぞろぞろと人が降り始めました。私も降りなければならないのかと思 って荷物を持とうとしたら、おまえはここに座っていればいい、と手で合図されました。
気がつくと、男性はみんな降りてしまって、運転手を除くと、座っているのは女の人ばか りです。その女の人たちがじろじろと私を見るので、「えっ、ここからは女性専用車両? 」と思って不安になりました。
突然、運転手がなにか合図の声を出したかと思うと、バス を降りた男たちが、ギリシャ語で「せーのー」とかなんとか言って、なんとバスの押し掛 けをしたのです。バスは、ブルンとみぶるいをして、エンジンが掛り、笑顔いっぱいの男たちがバスに乗ってきました。私は茫然としてそして拍手をしました。乗ってきた人たち は私にVサインをしてくれました。手伝うべきだったのかもしれないのに、あいにく「言葉弱者」で不安であったガイジンに、共感の笑顔をおくってくれました。
乗合バスには、たまたま、同じ時間に偶然乗り合わせた人たちが乗っています。運転手 もいますが、客も乗っているだけではなく、客の力が必要な時もあります。弱い人に対し てやさしさを発揮しなければならない時もあるでしょう。分譲マンションの大規模修繕工 事を手掛けるときも、「力を合わせる」ことと、「弱者を助ける」ことが大事だと思いま せんか? 「同じマンション現場で働く」こともそうですが、何より「マンションという もの自体が共有とケア精神」で成り立っているのです。場を共有することと、お互いにい たわりの優しさを持つということです。
安全大会では、関係者が「安全管理」と「安心できる仕事環境」を目指して集まります。 同じ仕事を共有しているという「共有意識」とお互いに気遣いをする「いたわり精神」を ぜひ現場ごとに定着させていただきたく思います。